横領行為の類型は、
①売却、②二重売買(二重譲渡)、③贈与・交換、④担保供用、⑤債務の弁済への充当、⑥貸与、⑦会社財産の支出、⑧交付、⑨預金、預金の引出し・振替、⑩小切手の振出し・換金、⑪費消、⑫拐帯、⑬抑留、⑭着服、⑮搬出・帯出、⑯隠匿・毀棄、⑰共有物の占有者による独占
に分類できます。
小切手の振出し・換金による横領罪
小切手の振出し・換金に対する横領罪の成否について説明します。
他人のために当座預金にて小切手振出しの権限を有する者が、自己の遊興費等の個人的用途に充てる目的で、本人名義の小切手を振り出すなどした場合、背任罪(刑法247条)となるのか横領罪(刑法252条)となるのかについて判例は分かれています。
背任罪とした判例
背任罪とした判例として、以下のものがあります。
大審院判決(昭和8年12月18日)
この判例は、銀行の支店長代理が、小切手を作成することで、事後にその小切手を取得する第三者に対し、手形上の責任を負担すべき地位に立たせる原因をなし、職を罷免された後に、その小切手を他者に交付して割り引かせたことで、銀行に財産上の損害を与えたとしたものとして、背任罪が成立するとしました。
広島高裁判決(昭和27年8月4日)
この判例は、農協組合長が、自己の権限に基づいて、組合長名義の小切手を振り出す行為は、自己の占有する他人の物を横領したものではなく、任務に背いて農協組合に財産上の損害を与えたものとして、背任罪を構成するとしました。
大審院判決(昭和7年7月11日)
この判例は、他人の金銭を自己名義の当座預金に預け入れていた者が、小切手を振り出して他人に交付したにとどまり、銀行から金銭を引き出すに至らないときは、他の罪名に触れることがあっても、横領罪には当たらないとしました。
横領罪とした判例
横領罪とした判例として、以下のものがあります。
農協の金融担当の理事が、組合員でない者に対して、正規の手続をとることなく融資をするため、組合の小切手を貸与し、後日返済された金員や小切手を着服した事案です。
裁判官は、小切手の貸与自体が横領行為であるとして横領罪の成立を認めた上、返済金等の着服は事後処分として罪にならないと判示しました。
東京高裁判決(昭和51年7月13日)
部下に小切手を作成させ、実際には決済すべき債権債務関係のない会社の者Aに交付させた上で、Aからこれを受け取って遊興費等の支払に充てるために現金化した事案です。
裁判官は、Aは、被告人の手足となって小切手の交付を受けたにすぎず、小切手はその時点で被告人の占有に帰したものであるが、その小切手は当座預金から現金を払い出す手段として作成させたものであるから、預金払出しの段階において(業務上)横領罪を構成するものであって、その手段である小切手それ自体について横領罪は成立しないと判示しました。
広島高裁判決(昭和56年6月15日)
この判例は、小切手を振り出す一般的包括的権限を有する会社の取締役総務部長が、私的用途に充てるために、小切手を振り出して換金した事案において、その換金行為をもって横領罪が成立するとしました。
横領行為の類型の記事まとめ
横領罪(40) ~横領行為の類型①「横領行為としての『売却』」「仮装売買による横領罪の成否」「売却の意思表示をした時に横領罪は成立する」「不動産の売却に関する横領罪の成立時期」を判例で解説~
横領罪(41) ~横領行為の類型②「二重売買(二重譲渡)による横領罪」を判例で解説~
横領罪(42) ~横領行為の類型③「贈与・交換による横領罪」を判例で解説~
横領罪(43) ~横領行為の類型④「担保供用による横領罪」「質権・抵当権・譲渡担保権の設定による横領」を判例で解説~
横領罪(44) ~横領行為の類型⑤「債務の弁済への充当による横領罪」「貸与による横領罪」を判例で解説~
横領罪(45) ~横領行為の類型⑥「会社財産の支出による横領罪」を判例で解説~
横領罪(46) ~横領行為の類型⑦「交付による横領罪」を判例で解説~
横領罪(47) ~横領行為の類型⑧「委託金の預金、預金の引出し・振替による横領罪」を判例で解説~
横領罪(48) ~横領行為の類型⑨「小切手の振出し・換金による横領罪」を判例で解説~
横領罪(49) ~横領行為の類型⑩「消費による横領罪」「拐帯による横領罪」を判例で解説~
横領罪(50) ~横領行為の類型⑪「抑留による横領罪」「虚偽の事実を述べることで抑留行為となり、横領罪が成立する」「不作為による抑留」を判例で解説~
横領罪(51) ~横領行為の類型⑫「着服による横領罪」「搬出・帯出による横領罪」を判例で解説~
横領罪(52) ~横領行為の類型⑬「隠匿・毀棄による横領罪」「共有物の占有者による独占による横領罪」を判例で解説~