刑法(強盗罪)

強盗罪(24) ~強盗利得罪(2項強盗)⑥「2項強盗殺人」を判例で解説~

2項強盗殺人

 債務(借金など)の支払を免れるために、債権者を殺害すれば、2項強盗殺人が成立します。

 刑法236条2項の強盗利得罪(2項強盗)罪を犯して人を殺害した場合、刑法240条強盗殺人罪が成立します。

 2項強盗殺人は、2項強盗による強盗殺人を通称した呼び方です。

 2項強盗殺人は、債権者の殺害について、債務の支払を免れるとの2項強盗の故意が認められる限り、2項強盗殺人が成立すると解される場合が多いです。

 2項強盗殺人の判例として、以下のものがあります。

鹿児島地裁判決(昭和62年2月10日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法236条2項の強盗罪(以下、2項強盗という。)の成立には、強盗の故意及び暴行脅迫をもって「財産上不法の利益」を得ることが必要である
  • 「財産上不法の利益」とは、同条1項の強盗罪との対比から、1項にいう財物の取得と同視しうる程度の具体的、現実的な利益でなければならないが、債務の支払を免れることも、それが具体的、現実的な債務の支払いを免れることであれば、右の財産上の利益に含まれることは当然である
  • 本件の場合、被害者Aの被告人に対する債権は、その額も750万円と定まっており、その支払期日等は格別定められていなかったものの、それは被告人がAから騙取に等しい方法で交付をうけたからであって、右事実がは、ただちにその返還請求を受けることは確実であり、しかも、早晩、右事実は露見するおそれが強かったと認められるものである
  • 被告人は、現実的具体的債権債務関係にあることを十分認識したうえ、これが発覚してAから右債務の履行を迫られるのを免れる意思でAを殺害したと認められるのであるから、そのような場合には、被告人について、そのこと自体をもってただちに2項強盗殺人罪が成立すると解すベきである
  • 本件の場合、Aには相続人のいることが証拠上明白であるけれども、相続人の存否というような刑事手続上確定困難な事情によって犯罪の成否が左右されるというのは不自然である
  • 同様にして、相続人からの支払請求の有無あるいは生前の債権者からの債務支払いの督促の有無、債権証書の有無等、後発的あるいは偶発的な事柄に犯罪の成否をかからせるのは正しい解釈とは思われず、又、一般的な法常識にも反すると言うべきである
  • よって、本件については、被告人に対し、二項強盗罪の成立を認めるのが相当である

と判示しました。

最高裁判決(昭和32年9月13日)

 この判例は、被害者Aから借りた11万円を返せず、借金を踏み倒すため、Aを殺害しようとしたが、殺人が未遂になった事案で、2項強盗殺人の未遂の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人は、Aが死亡すれば、被告人以外にその詳細を知る者のないことに思をいたし、むしろAを殺害して債務の履行を免かれ、もって財産上不法の利得を得ようと企図した
  • 被告人は、人家がなく人通りの稀れな道路上に差しかかるや、Aの頭部等を殴打し、よって頭部、顔面等に多数の裂創挫創等を負わせ人事不省に陥らしめたが、Aが即死したものと軽信し、そのままその場を立ち去ったので、Aの右創傷が被告人の意に反し、致命傷に至らなかったため、殺害の目的を遂げなかった
  • 被告人の右所為は、刑法240条後段243条236条2項に該当し、強盗殺人未遂の罪責を負うべきこともちろんであるといわなければならない

と判示しました。

大分地裁中津支部判決(昭和53年1月31日)

 この判例は、被告人が、食堂経営の資金繰りのため、被害者Bから多額の借金をし、その謝金の返済を免れるため、Bを殺害した行為について、2項強盗としての強盗殺人罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人(女性)は、Bを殺害すれば借金の催促も受けずこれを支払わずにすむうえに、Bが常に持ち歩いている大金も入手することができ、またBとの情交関係も夫Rや母Hに気づかれずにすむと考え、Bの殺害を思い立つに至った
  • 被告人ひとりの力では、到底Bを殺害することはできそうもないので、夫R、母Hに対し、Bへの約300万円に及ぶ借金の取立から逃がれるためには、Bを殺すほか途がないことを訴えて、これに協力方を懇請したところ、夫R、母Hも被告人の考えに同調することになり、ここに被告人3名は、共同してBを殺害し、さらにBの所持している現金をも奪おうとの結論に達した
  • 被告人らは、Bの頸部ロープを巻きつけて絞めるなどし、Bを窒息のため死亡させて殺害し、被告人らのBに対する債務300万円余りの返済を免れて財産上不法の利益を得るとともに、同人所持の黒ビニール製鞄に在中の現金25万5000円を強取した

と判示し、2項強盗としての強盗殺人罪の成立を認めました。

浦和地裁判決(昭和53年12月12日)

 この判例は、被告人が、被害者Mから受け取った共同事業資金48万円をギャンブルで溶かし、Mに「警察に通報する」などと言われ、Mからの48万円返還の追求を免れるため、Mを殺害した行為について、2項強盗としての強盗殺人罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人は、Mの胸部を数回突き刺し、心臓刺切創による失血のため死亡させて殺害し、現金約48万円の返還を免れて、同金額相当の財産上不法の利益を得た

と判示し、2項強盗としての強盗殺人罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和35年8月30日)

 麻薬の購入資金を預かり、これを領得するため相手を殺害した事案で、裁判官は、

  • たとえ金員が麻薬購入資金として、被害者C及びD両名から、被告人Aに保管を託され、右金員の授受は不法原因に基づく給付であるがため、右Cらがその返還を請求することができないとしても、被告人らが金員を領得するため右Cらを殺害し、同人らから、事実上その返還請求を受けることのない結果を生ぜしめて返還を免れた以上は、刑法240条後段236条2項の不法利得罪を構成するものと解すべきである

と判示し、2項強盗としての強盗殺人罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和61年11月18日)

 覚醒剤の返還及びその覚醒剤の代金の返還を免れるため、Sを殺害しようとしたが未遂に終わった事案で、2項強盗としての強盗殺人未遂罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 被告人による拳銃発射行為は、被害者を殺害して、同人に対する本件覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたその代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためになされたことが明らかであるから、右行為はいわゆる2項強盗による強盗殺人未遂に当たる

と判示しました。

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